「好き」で「得意」なことを「価値転換」する

■ジョブ型雇用を生き抜く

 

私は、良き仕事の在り方とは、「好き」で、「得意」なことを、「価値転換」できている状態だと思っています。

やっている仕事が「好き」であれば、時を忘れて集中できます。やる気に満ちて、工夫したり、やり遂げようという意欲も高まります。「もっとやりたい、もっと先へ、もっと深く」といった気持ちが心の底から湧いてきます。

ただ、その仕事がうまくいくためには、「得意」であることが必要です。たとえ好きなことでも、趣味と違って仕事は仕事です。周りの期待に応えたり、自分が望むアウトプットを出すためには得意なことで勝負することです。

そして、自分が生み出しているアウトプットが、世の中が求めている形に「価値転換」されていることが大切です。仕事においてアウトプットの価値を決めるのは、自分ではなく相手です。

どれぐらいの水準で価値転換できているかは、得られる対価の水準で判断できます。高い価値には高い対価が支払われますが、低い価値には低い対価しか払われないからです。

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「好き」と「得意」はどちらが大事?
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さて、このコラムでは「価値転換」は横に置き、「好き」と「得意」のどちらを優先させるべきか、という点を考えてみます。これに対しては2つの両極端の考え方があります。

1つは、たった一度の人生だから好きな仕事を選ぶべしというものです。「好き」に勝るエネルギー源はなく、困難でさえも楽しみながら乗り越えていけるという論法です。

もう1つは、仕事とは誰かの役に立つことである。したがって、好きかどうかに関係なく、人の役に立てる得意なことで勝負すべしという主張です。

どちらももっともらしく聞こえます、しかし、私は、このような「好き」か「得意」かの二者択一論には意味がないと思っています。なぜならば、最終的に「好き」と「得意」の両方がそろっていなければ仕事は長続きせず、仕事から充足感を得ることもできないからです。

たとえば、料理が好きでも得意ではない人は、レストランのシェフにはなれなれません。イラストを描くのは好きだが得意ではない人は、アニメ制作会社で働くことはできません。

反対に、料理が得意だが好きではない人は、壁にぶつかったときに、歯を食いしばって乗り越えることはできないでしょう。イラストを描くのが得意だが、その時間が苦痛でしかない人は、決して長続きはしないでしょう。

仕事で成功している人は得意なことで勝負しているだけでなく、その仕事が好きなのです。プロの野球選手(野球が得意な人)が、「なぜ頑張れるのですか?」という質問に対して、「野球が好きだからです」と答えている光景を目にした経験は、あなたにもありませんか?

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しかし、組織人は自由に選べない
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「好き」と「得意」を両立させる―――とは言っても、企業などの組織で働く人は、必ずしも自分の意思で好きや得意を選択できるとは限りません。会社の都合で担当業務と要求されるスキルが決められるからです。

であれば、好きと得意のどちらが優先かなどと考えるよりも、どうすれば、いまの仕事が好きで得意になれるのかを考えることの方が大切です。

そのためには、何はさておき、目の前の仕事に全力で取り組んで結果を出し、「この仕事は得意だ」と言えるようにすることです。たとえ経験のない仕事であっても、全力で取り組んでいるうちにできるようになり、結果を出せるようになります。経験を重ねてスキルが蓄積されていくと、その分野の専門家になり「得意な仕事」になっていくのです。

周りから評価され頼りにされてくると自分の能力への自信が高まり、「私ならできる」「きっとうまく」と自覚する自己効力感が高まっていくのです。自己効力感が高まると、モチベーションや挑戦心も高まり、そのような自分を好ましく感じます。そして、その感覚をもたらしてくれる仕事が好きになっていくのです。

このようにして「好き」と「得意」がそろってくることで、成長の好循環が生まれてくるのです。

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本当に、そんなにうまくいくの?
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しかし現実は、どれだけ努力しても得意になれないこともあります。そのようなとき、「好き」や使命感、責任感だけで続けていくのは困難です。やがて、その仕事が嫌いになっていく可能性もあるでしょう。

その場合は、残念ながらその仕事に向いていないのだと思います。向いていないことは、得意にも好きにもなれませんので、別の仕事を探した方がいいと思います。

また、仕事がどうしても好きにはなれないとき。それは、その仕事から充足感が得られていないのだと思います。どのような仕事から充足感を得るかは、善し悪しではなく人によって違います。好きでないことに貴重な時間を費やすのは、良い選択とは言えません。仕事がストレスになり長続きはしないでしょう。やはり、別の仕事を探した方がいいと思います。

ただし、得意になれない場合も好きになれない場合も、自分一人で悩むのではなく、一度は人に相談するなど、視野を広げ、視点を多様化してみるのがよいでしょう。

仕事がうまくいっていないから、その仕事が好きになれないのかもしれませんし、仕事ではなく人間関係がいやだから仕事もいやなのかもしれないからです。

もちろん相談相手は、無責任に「そんなことないよ」と励ますような人ではなく、真摯に一緒に考えてくれる人でなければなりません。

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キャリアの選択肢を増やせる人になる
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繰り返しますが、たまたま出会った仕事であっても、とにかく一度は全力でやってみて結果を出すことです。それで「得意」になり、「好き」になる可能性が高まります。

私たちを取り巻く環境がこの先どう変化していくかは、誰にもわかりません。だからこそ、私たちは、「キャリアの選択肢を増やせる人」であることが大切です。

好きなことしかやりません。こう考えて入り口で制限をかけるのではなく、出会った仕事を「好き」で「得意」にしようとする姿勢と実行力が、キャリアの選択肢を増やしていくことになります。

 

「好きで得意なことを価値転換する」については、拙著『管理職3年目の教科書』(東洋経済新報社)の第5章すべてを使って述べています。

 

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