ある製造業の設計部門の部長職を最後に定年退職したAさん。会社との再雇
用契約によって働き続けたのですが、すぐに言いようのないストレスにさい
なまれたとのことです。
かつて面倒を見た部下たちが気をつかって何かと相談してくれはするもの
の、どこか腫れ物に触るような態度。部長として決裁権を持ち、仕事を大き
く動かすことに醍醐味を感じていた「あのころ」がどうにも懐かしくて仕方
ないそうです。
そこで、第二の人生をと転職活動を始めたのですが、待っていたのは厳しい
現実でした。
-----------
オファーをもらえないのはなぜ?
-----------
Aさんは、管理職として組織全体のマネジメントや担当役員とのコミュニケ
ーション、他部門との調整などに力を発揮していました。そのことをアピー
ルするのですが、「難しいですね」と告げられるのです。
なぜならば、企業が求めるのは、必要な専門性を備えた上でプレーヤーとし
て即戦力で仕事ができる人材だったのです。
Aさんは、マネジメントに専念して実務の第一線のから遠ざかっていたため、
専門家としての知識やスキルがさび付いてしまっていたのです。
一方、外資系製造業の事業本部長として200人以上の社員を束ねてきたB
さん。還暦を機にゆっくりしようと考えて退職を決めます。しかし、その話
が社外に伝わると、あっという間に3社から採用のオファーがありました。
Bさんはもともと金属工学の専門家で、管理職になってからも製品開発チー
ムをまとめるかたわら、現場の第一線で陣頭指揮をとり続けてきました。
事業本部長になってからは、さすがに実務は部下に任せていましたが、先端
の論文を読みながら部下との技術的な意見交換を行ったり、品質チェックの
現場に立ち会ったりすることで、「いつでも実務に復帰できますよ」と言え
るほどに専門性のレベルを維持してきたのです。
AさんもBさんも、高いポジションの管理職として活躍してきたにもかかわ
らず、このような違いが起きたのです。
Aさんが役職が上がるに従ってゼネラリストとしてマネジメントに専念し
てきたのに対して、Bさんはチーム・マネジメントを行いながらも専門性を
維持し続けてきたからです。
-----------
マネジメントができる専門家
-----------
日本企業には、管理職になったら一歩引いてマネジメントに専念すべきとい
った考え方が根強くあります。しかしそれは、今の時代の個人のキャリアを
考えない会社都合の発想です。
今の時代に求められるのは、Aさんのようなゼネラリストではなく、高い専
門スキルでプレーヤーとして仕事ができる人です。さらに、Bさんのような
チーム・マネジメント能力がある専門家です。
ジョブ型雇用を導入する企業や、専門家の中途採用に力を入れる企業が急速
に増えてきている状況を見れば、そのことはますます鮮明になっていくでし
ょう。
このような環境変化の中で、私たちはどのような働き方をすればよいのでし
ょうか?
『管理職3年目の教科書』(東洋経済新報社)にて、詳細に述べております
ので、よろしければご参照ください。