仕事における人材価値を高めるために絶対に欠かせない要件は、特定分野の
専門家であること、理想的には、2つ以上の専門性を有していることです。
日本社会では、年齢や役職ではなく、専門性を尺度とした人材価値の再評価
が起きつつあるからです。
ただ、必要とされる専門性は刻々と変化しており、新しい専門分野も次々と
生まれています。悩ましいのは、それらを正確に予測することが困難だとい
うことです。
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10年先でも予測できない
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スマートフォンが巻き起こした世の中の変化が良い例です。
2007年にアップル社のiPhoneが登場して以降、スマホの利用率は2018年
度には91%まで拡大し(総務省調査)、わずか10年程度で携帯電話市場を
制覇します。
スマホを端末として場所を問わずにゲームを楽しんだり、業務処理を外出先
で行えたりするアプリケーション市場も爆発的に拡大しました。
その世界では従来型の携帯電話の世界で仕事をしてきた人たちの専門性だ
けでは太刀打ちできず、よりコンピュータ寄りの専門性が要求されます。
たった10年の間に、携帯電話市場で必要とされる専門性が劇的に変わって
しまったのです。
しかし、iPhoneが登場する2007年以前に、誰がこの状況を予測できたので
しょうか?
たかだか10年先のことを予測することもできないのに、それ以上の未来を
予測することなどできるはずがありません。
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未来ではなく「いま」を見る
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私たちがすべきことは、氾濫している未来予測に振り回されることではあり
ません。かといって、何も考えずに惰性で仕事をすることでもありません。
私たちがすべきことは、いまの仕事に全力で取り組みつつ、目の前で起きて
いること、すなわち「いま」を正しく理解することです。
ビジネス形態の変化や新しい技術に関心を持ち、それが自分の人生や仕事に
どう影響してくるのかを、時々考えてみることです。
これを地道にやっていると、いま取り組んでいる仕事の周辺に、新しいビジ
ネス、新しい技術、新しいニーズ、新しい価値観などの息吹が感じられると
きがあります。
それを、可能な範囲で少しでも仕事に取り込んでみたり、小さな挑戦をして
みたりすることで、いま有している専門性を、時代に対応したものへと進
化・変化させていくきっかけとなるかもしれません。
メンバーシップ型からジョブ型への移行、黒字リストラによる大胆な人材の
新陳代謝。
このような変化においても、専門性を軸とした人材価値を地道に進化させて
いくことで、ビジネスパーソンあるいはエンジニアとしての選択肢が増え、
むしろ変化の波を捉えた自分らしいキャリアを築いていくことができるの
ではないかと思います。
私たちに必要なのは、遠くの将来を覗こうとする双眼鏡ではなく、「いま」
を正しく理解するための「動体視力」です。