偶然の要素が強いキャリアを自律的に築くには?

■ジョブ型雇用を生き抜く

 

不透明で複雑な「VUCAの時代(注1)」だと言われています。そのような環境下で、私たちは将来のキャリアをどのように築いていけばよいのでしょうか?

心理学者で米国スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ博士等の調査によると、「人のキャリアは偶然に支配されていると思うか?」という質問に対して、8割以上の人がYESと回答しています

この結果を受けたクランボルツ博士の主張は次のようなものです。

  • 自分自身や周りの環境は変化し続けるため、そこで起きる想定外の出来事がキャリアに影響することは避けられない。
  • 従って、長期のキャリアプランはほとんど意味をなさず、計画したキャリアへの固執はむしろ可能性を奪ってしまう。
  • その代わりに、予期しない出来事に対する対応力を高めることや、好ましい偶然が起きるような行動習慣を身につけることの方が、キャリアにとってよほど意味がある

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想定外の出来事がキャリアに影響を及ぼす
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この考え方は、私のキャリアに照らし合わせてみても極めて納得性の高いものです。

私は、大学卒業後に入社した造船会社で深海調査船の開発に携わるのですが、そこには次のような偶然があります。

・入社後の配属が本社の船舶基本設計部門だった
・国の深海調査船開発予算が承認されていた
・入社した会社が設計業務を受注していた
・上司が私を耐水圧の強度計算担当として指名した

この仕事をきかっけに、私は構造強度計算の専門家という道を歩み始めるのですが、入社する会社を選んだこと以外に、上記のことに対して私の意思はまったく介在していません。すべて「たまたま」の偶然なのです。

もし、配属が工場だったら、国の予算が承認されていなかったなら、会社が受注していなかったなら、上司が別の社員に仕事を命じていたら――――おそらく私は別のキャリアを歩んでいたことでしょう。

その後、証券会社に転職して数学や統計学を応用した商品開発、市場分析に携わりますが、そこにも、次のような偶然があります。

・深海調査船の開発業務が一区切りついた
・その時期に各証券各社が一斉に理科系人材の中途採用を始めた
・たまたま新聞で証券会社の人材募集広告を目にした

最終的に募集に応じて転職を決めたのは自分の意思ですが、そこに至る過程はすべて、やはり「たまたま」の偶然です。

このような自分の経験を振り返れば振り返るほど、人のキャリアは偶然に支配されているというクランボルツ博士の主張は実感を伴って納得できるものです。

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自律的なキャリアを築く3つの行動原則
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では、私たちは、自分のキャリアをすべて偶然に委ねなければならないのでしょうか?

もちろん、そのようなことはありません。どのような偶然が起きるかはわからなくても、起きたことに対してどう対応するかは自分の意思でコントロールできるからです。

そればかりか、クランボルツ博士は、「適切な思考と行動の習慣によって、好ましい偶然が起きる可能性を高めることさえできる」としています。

であれば、私たちには良き偶然に出会い、それを生かす力が必要です。その力を養うためには、私の経験上、次の3つの行動原則が役に立つのではないかと思います。

第1の行動原則;起きた偶然に全力で取り組み必然を起こす
第2の行動原則;好ましい偶然を起こすための行動習慣を整える
第3の行動原則;ビジネスアスリートとしての動体視力を鍛える

VUCAの時代だからこそ、この先、偶然をうまくマネジメントしながらキャリアを自律的に築いていく、「キャリア自律」の姿勢がますます重要性を増してくるのです。

 

なお、3つの行動原則をどのように実践していくかについては、拙著『管理職3年目の教科書』(東洋経済新報社)をご参照いただければ幸いです。

注1)VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもので、物事の不確実性が高く、将来の予測が困難な状態を意味している。

 

 

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