多くの企業が創造性を高めるために組織に多様性を持ち込もうとしています。
しかし同時に、「多様性を尊重していたら、様々な価値観が交錯して収拾がつかなく
なった」「多様性を尊重するほど意見がまとまらずに、スピード感がなくなってしま
った」という声も聞きます。
一方で、私が勤めていた米国企業には様々な国籍の社員がいて、価値観や考え方
が多種多様でした。にもかかわらず、仕事のスピード感を保も保たれていました。
なぜ、このような違いが起きるのでしょうか?
それは、意思決定に関するゲームのルールが異なるからです。
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合意形成というゲームのルール
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日本で主流なのは、合意形成で仕事を進めるというゲームのルールです。
たとえ意見の相違があっても話し合いながら落としどころを見つけて、「では、この
辺で」と話を収束させる技術も身につけています。そこにあるのは、それぞれが出過
ぎず引きすぎずといった協調性です。
ただしこれは、チームが同じような価値観と考え方を持った同質的なメンバーで構成
されている時代に機能してきたものです。多少の違いはあっても同じような視点と視
野であるため、合意を形成しやすいのです。
しかし、組織の構成メンバーが同質性から多様性へと変わっていくことで、落としどこ
ろを見つけにくくなったり、「では、この辺で」が通用しなくなってしまいます。その
結果、収拾がつかないという状態が起きてしまうのです。
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米国企業のゲームのルール
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一方で、米国企業の意思決定のルールは次のようなものです。
(1) 多様性は尊重するので自由に意見を言ってかまわない。
(2) しかし、最終的な意思決定はチームの責任者が行う。
(3) どのような結論であってもメンバーはそれに従う。
チームの責任者は、自分の意思決定の質を高めるために、多種多様な意見を歓迎
します。異なった視点を持つメンバーによる議論が、自分が見落としていたことをカ
バーしてくれることもあります。
しかし、どれだけ意見が交錯していたとしても、仕事には決めて進めなければならな
いタイミングがあります。チームの責任者はそのタイミングを逃すことなく、議論を打
ち切って決断を下します。
メンバーは、自分の意見と異なった結論でも、最終的な権限と責任を持つ責任者が
決めたのであれば、それが最良の判断だと受け入れます。だからこそ、メンバーは
結論が出る前に言いたいことを存分に主張するのです。
このように、多様性を生かすとは、それぞれが自分ならではの意見を提供し、健全な
議論をした上で、それを十分に踏まえた責任者が最良だと思う意思決定を行うことで
す。
仕事は「決めて実行する」ことの繰り返しです。質の高い意思決定には多様性が必
要です。そして、迅速な実行には、それにふさわしい意思決定のルールが必要なの
です。