『管理職1年目の教科書』でも取り上げていますが、
仕事の生産性を高めるためには「迅速な決断」が必要です。
ふだん私たちは、
真剣に考えても決めることができないとき、
さらに時間をかけて考えようとします。
しかし、10分間考えても決められないときは、
おそらく1時間考えても決めることはできないでしょう。
なぜならば、
それは考えているのではなく迷っているからです。
つまり、
結論への筋道を論理的に整理しようとしているのではなく、
こちらを取ればあちらを失う、
あちらを立てればこちらが立たないといった、
二律背反のタコツボにはまり込んでいるのです。
このようなときには、
いつまでも自問自答を続けるのではなく、
誰かと話をすることでアタマが整理されて
結論が出せるときがあります。
-------------
自分で気がつく脳の仕組み
-------------
かつての同僚で、即断即決が信条の田宮さん(仮名)。
考えに行き詰まると、よく私の席までやってきて、
あーだ、こーだとテキトーに話し始めます。
担当分野の異なる私が
気の利いたことなどを言えるわけがないので、
こちらもテキトーに話します。
しかし、しばらく話をしているうちに、
「あー、そういうことか、わかった、わかった」と
勝手に答えを見つけて去ってくのです。
おそらく皆さんも、誰かと話をしているうちに
何となく答えが見つかったという経験が、
一度や二度はあるのではないでしょうか。
これは「オートクライン」と呼ばれる脳の機能で、
自分が発した言葉を
自分の脳が受信することを繰り返しているうちに、
次第に考えが深まったり気づきが起きたりする仕組みです。
一人で悶々と考えるのではなく、
人と話すことで、より多面的に脳に刺激が与えられるのです。
田宮さんは、このオートクラインを
うまく利用して迅速に物事を決める達人なのです。
----------------
効果的なオートクラインの起こし方
----------------
田宮さんさんのように効果的にオートクラインを起こすには、
いくつかのコツがあります。
1.相手に答えを期待しないこと
相手は良かれと思って
いろいろなアドバイスをしてくれるかもしれませんが、
オートクラインは自分で自分の脳を活発化させて
答えを出す仕組みです。
相手のアドバイスの適否を判断しようとせずに、
その話をヒントにしながら自分の中で考えを発展させ、
それをどんどん口に出すことで
結論へ向けて収束させていくことが大切です。
2. 説明しようとしないこと
もらったアドバイスが的を射てなかったり
実現できそうもないと感じたとき、
無理な理由をわかってもらおうと説明したくなります。
しかし、そのような場合、
相手はますます役に立とうとして、あるいはムキになって
次々とアドバイスを繰り出してくることになりかねません。
そうすると、
「なんでわかってくれないの」と、
できない理由を説明することが目的化してしまい、
建設的な良い気づきは起きません。
できるかできないかに関係なく、
どのようなアドバイスもありがたく受け止めて、
どうするかは自分の中で考えればよいのです。
会話が説得調になってきたと感じたら、
「参考になる考え方ですね」などで区切りをつけて、
一旦リセットすると良いでしょう。
3.「どうしようかな?」とつぶやくこと
人の脳は、問われれば答えを探そうとします。
相手と話をしながら、時々自分に
「どうしようかな?」と問いかけることで、
答えに向けて収束させようとする意志を
明確に脳に伝えるのです。
決して「難しいなあ」とか「迷うなあ」などの、
思考を停止させる言葉は口にすべきではありません。
あくまでも「どうしようかな?」です。
このような点に気をつけながら人と話をしていると、
「ああ、そういうことか!」という気づきが
起きる可能性が高まります。
10分間考えても答えが出ないときは、
誰かと適当に話して、
早めにタコツボから抜け出すことが、
迅速な決断のための一つの方法です。
「オートクライン」の仕組みを効果的に使って、
相手の考えを深めたり気づきを促す
コミュニケーションの高度な技術が「コーチング」です。
『管理職1年目の教科書』~外資系マネージャーが絶対にやらない36のルール
(東洋経済新報社)