合理性のカタマリである米国企業で「1on1ミーティング」が定着している理由

├結果を出す力

 

2019年7月、富士通が生産性やイノベーションの向上を目的として、
以下のような「ニューノーマル」に向けた働き方改革の取り組みを公表しました。

・約8万人の国内グループ従業員は、製造拠点や顧客先常駐者などを除いて
テレワーク勤務を基本とする。

・全席フリーアドレスとし、2022年までに現状のオフィス規模を50%削減する。

・幹部社員に適用してきた「ジョブ型人事制度(注)」を一般従業員にも適用拡大する。

・上司・部下間の1対1コミュニケーションの充実に向けた、全従業員対象の
1対1コミュニケーションスキルアップ研修の実施。

注)ポジションと仕事の内容を明確に定義して、そのポジションと仕事に対して
報酬を決めるという日本以外の企業で一般的な人事制度。

最後の1対1コミュニケーションは、
すでに導入してる「1on1ミーティング」に関連するものです。

1on1ミーティングについては、『管理職1年目の教科書』でも述べていますが、
ひと言で言うと、
上司と部下が力を合わせて目標を達成するための定期的な個別ミーティングです。

米国系企業では一般的であり、私が勤めていた会社でも、
週1回決まった曜日と時間に45分程度。
PC上のスケジュール表で半年先まで予定を入れてしまい、
よほどのことがない限り行う優先度の高いコミュニケーションでした。

最近は、訪問する日本企業の中間管理職の皆さんの中でも、よく話題になります。

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「時間がない」「部下が多すぎる」
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1on1ミーティングに対する管理職の皆さんの反応は以下の3種類です。

① すでにやっている
② やりたいがやれない
③ やる必要がない

「①すでにやっている」人の印象は総じて肯定的で、やってみてわかった
業務の課題や部下の考えを貴重な情報とし、より良い仕事や
チームづくりのための課題意識が明確になってきています。

「②やりたいがやれない」人ですが、その理由の上位は
「時間がない」と「部下の人数が多すぎる」です。

ただ、すでにやっている人が、時間があって部下の人数が少ないのかというと
そんなことはなく、大して状況に変わりありません。

権限委譲を拡大することで意思決定の時間を短縮させたり、無駄な会議や
仕事を廃止するなどにより、双方の時間を捻出しているのです。

部下の数が30人ほどというある課長さんも、係長(5人)に絞って
1on1を行っていますし、20人程度であれば週1回ではなく月1回で全員と。
あるいは、1人10分で週1回などの工夫をしています。

制約があっても工夫することで「やる」を実践しているのです。

彼らから見れば、やりたいができないと言う人は、できない理由を
挙げているだけで、本心はやりたくない人のようです。

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「やる必要がない人」の理由
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「③やる必要がない」人ですが、その理由としては
「日常の会話でこと足りている」「半期ごとの面談で十分」などが見られます。

ただ、よくよく話を聞くと、1on1ミーティングの意味をよく理解せずに
そう言っている人が多いようです。

1on1ミーティングは、日常のコミュニケーションや定期的な評価面談、
人事面談とは全く異なります。

あくまでも、仕事で部下とチームがより高い成果を出すめの実務的なミーティングです。

米国系企業では日常の業務連絡や進捗報告などはすべてメールで行うため、
それらとは違った、この先の仕事に何倍もの良き影響を与える
レバレッジ効果(テコの作用)を生む内容になってきます。

話し合われるのは、たとえば、このようなものです。

・いまの仕事の進め方は本当に効率的か
・起きている問題への対処法は妥当か
・部下は的確な視点で物事を見ているか
・上司が見過ごしていることはないか
・部下が困っていることはなにか
・上司がサポートできることはなにか
・上司のサポートは効果的か
・先延ばしにせずに手を打つべきことはなにか
・部下の仕事ぶりに対する上司のフィードバック
・上司のマネジメントに対する部下のフィードバック
・モチベーションは維持できているか

言いにくいようなこと、感情が絡んでくるようなこと、
人には聞かれたくないようなことも少なくありません。

しかし、解決しなければならないが先延ばしになっていること、
部下が、あるいは上司が気づいていない大切なことなどを話し合って
解決していくことで、本質的な仕事の生産性を高めていくことになります。

日常のコミュニケーションは、どうしても緊急のことやその場で思いついた
内容になりがちですが、1on1ミーティングは明確な目的意識のもとで
お互いが準備をして臨むため、限られた時間ではあっても、
濃縮された質の高いコミュニケーションになります。

センシティブな事柄も、半年や四半期の定期面談まで持ち越すことなく
リアルタイムで共有・解決していくため、仕事のスピード感も出てきます。

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高い成果を出すための合理的な投資
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米国企業は、常に時間を金額換算するような合理性のカタマリです。
しかも、成果を出さなければ厳しい待遇が待っているというプレッシャーに、
上司も部下もさらされています。

それでも、当たり前のように貴重な時間を割いて1on1ミーティングを行っているのは、
1on1ミーティングには、個人とチームの成果を最大化するという
双方にとってメリットがあることを知っているからです。

成果が高まるのであれば必要な時間は「投資」するという、米国企業の合理性です。

最近、日本では1on1ミーティングの目的を部下の成長のためとか、
部下の仕事をサポートすることなどと定義している記事をよく目にします。

上司から部下に向かって一方的な上意下達の時間ではないという意味で、
そこが強調されるのは仕方がないとしても、
それらは1on1ミーティングの一面でしかありません。

上司にとっては、部下育成や部下サポートだけでなく、
部下からのフィードバックやアイデアによってマネジメントを
サポートしてもらう機会でもあります。

部下は部下で、上司のサポートによって仕事を加速させたり
課題を解決するだけでなく、上司のマネジメントやチーム運営に対して
意見やアイデアを提供する機会でもあります。

「やりたいがやれない人」「やる必要がない人」は、そのような趣旨を
十分に理解しないで、やらないことありきで理由を探している可能性がないでしょうか。

新型コロナウイルスの影響で、テレワークの時間が増え、
上司と部下のコミュニケーションの形にも変化が起きています。

しかし、上司と部下が力を合わせて目標に向かって進んでいく
ということ自体は、何ら変わっていません。

部下とのコミュニケーションの時間をチームの成果の最大化のための
投資だと考えて、その最適な在り方を再考してみてはいかがでしょうか。

この逸話のようにならないためにも。

” 穴の開いたままの投網を使い続けて何日も魚を捕ることができない漁師に、
なぜそんなことをするのかを尋ねたところ、
「網を修理する時間がないからだ」という返事だった。”

 

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