かつて造船会社に勤めている時、
深海調査船の開発・設計をやっていました。
・・・ということもあり、
今回は久しぶりに深海ネタを。
日本が世界に誇る深海調査船といえば
『しんかい6500』です。
水深6,500mまで潜航でき(地球上の海底の98%をカバー!)
1回の潜水・調査・浮上を9時間かけて行います。
もちろん、深海の巨大な水圧に耐えられるだけの
強固かつ十分な水密構造にはなっているんですが、
潜航していて怖いのは、
何らかの理由で海底で動けなくなる「海底拘束!」。
海底に沈んだロープや漁網に引っかかったり、
海底の泥に深く埋まってしまい
動けなくなるリスクです。
では、万一、「海底拘束」が起きたとき、
『しんかい6500』では
どのような対策が採られるのでしょうか?
はい、ちゃんと4段階の対応が
実行できるようになっています。
海底拘束が起きてしまい、
スラスターで前後・左右・上下に動いても開放されないとき、
人が乗るコックピットの内部にある赤い4種類のスイッチを
順番に押していくことになっています。
まず、最初のスイッチ。
バラストとして積んでいる合計数百キロの鉄の板を
一気に切り離して船体を軽くし、
自然に浮きあがりやすくします。
もし、それでもダメなら次のスイッチ。
サンプルバスケット
(海底で採取した岩石などを入れる買い物かごのようなもの)
を切り離して更に船体を軽くします。
もしも、もしも、それでもダメなら
3つ目のスイッチ。
サンプル採取のための
ロボットアーム(マニピュレータ)を
泣く泣く切り離します。
なんてったって人命第1ですから、
重しになっているものを順番に捨てて
身軽になって、後は浮力で何とか・・・
という、自力浮上作戦です。
もーーーし、それでもまだダメなら、
最後は助けを呼ぶしかありません。
4つ目のスイッチで、
ロープの先に電波発信機のついた
救難ブイを打ち上げます。
信号を頼りに母船が水中をかっさらって
ブイを引っかけて、
ロープにつながっている調査船を
引っ張り上げます。
もっとも、潜航に際しては、
慎重な運航がなされているため、
過去に2つ目以降のスイッチが
押されたことはないそうです。
さてさて、このトラブル対応の発想は
私たちの仕事や日常に対してとても示唆的です。
つまり、何かがうまくいかなくて
身動きがとれないときは、何かを捨ててみる。
これで、
本当に重要なことに集中できたり、
あるいは何らかの覚悟ができたりして、
問題が解決し始めることってあります。
それでもまだダメなら、
救難ブイを上げて誰かに助けを求める、
これでも、いいんじゃないでしょうか。
深海という自然環境で起きるトラブルも、
人間社会の中で起きるトラブルも、
解決の糸口の見つけ方は似ていますね。