私はタクシーに乗ったときは、必ず運転手さんに話しかけます。雑学の宝庫で、面白い話が聞けるからです。かつて、ベテラン運転手の方からこのような話を聞いたことがあります。
同僚の中でも売り上げが多い人と少ない人がいる。コンスタントに多い人は自分なりの知見やノウハウを持っている。自分も、曜日と時間帯で客を拾いやすいエリア(マイ・ホットスポット)があることを知っているので、そこを流すようにしている。
また、タクシーを拾おうとしている人の雰囲気で、短距離か長距離かもだいたい分かる。場所や荷物、服装や人数、たたずまいなどから、なんとなく匂いがする。反対車線側に長距離の匂いがする人が見えれば、わざわざUターンして乗せることもある。
短距離か長距離かを予想して、当たった、外れたと一喜一憂するのも楽しいですよ、とのことです。
楽しそうに話してくれるので、調子に乗って売り上げを聞いてみると、社内では常にトップクラスだそうです。その会社は完全歩合制、かつ、売り上げが多くなるに従って運転手側の取り分比率が高くなるルールなので、いろいろ工夫しながら頑張ろうと思うとのことです。
ぼーっと流しているのでなく、試行錯誤しながらノウハウを磨き上げ、仕事を楽しみ、そして成果を上げている―――「一流」の運転手さんだなと思いました。
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どのような仕事にも「一流」がある
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この運転手さんのように、私はどのような仕事でも必ず「一流」の人がいると思っています。
客の感動を生み続ける空港の清掃担当者や、平均の何倍も売り上げる社内販売員。圧倒的なリピート率を誇るカリスマ添乗員や、人気作家からの指名が絶えない校正者など。時折、メディアにとり上げられることで、その存在を垣間見ることができます。
ある翻訳者の方からこのような話を聞いたことがあります。
翻訳本を読み進める読者の感情の変化が、原文を読んでいる人の感情の変化と同じ波長になるように訳すことが大事なんです。だから、”Yes”ひとつとっても、「はい」「そうです」「そうだね」「ああ」「そうそう」……のどれで訳すかを何日も悩むのです。
異分野の人からの普段とは違う学びを得ることは、視野を広げる貴重な経験です。同時に、その方が取り組んでいる仕事へのリスペクトの気持ちが大きくなります。
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一流の人ほど、人の中の一流を見つける
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一方で、他人の仕事を軽んじたり見下したりする人もいます。生半可な知識で、「適当にやって金もらえるんだからいいよな」などと平然と言ってのける人たちです。
どんな仕事にも厳しさがあることが理解できず、それを超えていく一流がいることも知らないのです。自分自身が一流の仕事をした経験がないのかもしれません。
せっかくの学習機会、成長機会を逸していることを、もったいないなと思います。
幸いにも、私が長年付き合ってきたビジネスパーソンの皆さんは、誰もが相手の仕事をリスペクトし、相手から学ぼうとする人たちです。
知人のMさんも、著名企業の大幹部という立場であるにも関わらず、本当に謙虚で学習意欲が旺盛です。人材開発という私の仕事に敬意を払ってくださり、お会いするたびに、質問攻めにあいます。その姿勢が、魅力ある企業経営につながっているのだと思います。私から見たMさんは一流のビジネスパーソンです。
私たちが知らないだけで、周りには卓越したスキルを発揮している一流人のプロフェッショナルがたくさんいます。そのような人の中の一流を見つけて、そこから学ぼうとする人もまた、一流の人だと思います。