かつて、
資産運用コンサルタントとして担当していた企業に、
世界の○○といわれるほどの大企業がありました。
訪問するたびにお会いする幹部社員のAさんですが、
立派な肩書きの方であるにもかかわらず、
決して偉そうにせず、
いつも私の説明を熱心に聞いてくださいます。
資産運用の仕事は未経験とのことですが、
とても勉強熱心で、本質をとらえる力があるようです。
知らないことは、
「○○って何ですか?」とか、
「それどういう意味ですか?」と
率直に質問してくださります。
えっ、と思うような基本的なことでさえ、
「○○って何ですか?」と、
ニコニコしながら子どものように聞いてこられるので、
こちらもいい気になって、
偉そうにぺらぺらと、どや顔で説明していました。
しかし、ある時、
とんでもないことに気がついてしまったんです。
何かというと、
「Aさん、知っている・・・・・・」
「知らない振りをしているのだ・・・・・・」
質問にまったく無駄がなく、
その内容があまりにも的確過ぎるのです。
どう考えても、
「よく分かっている人」の会話の流れです。
私はその瞬間、背筋が凍りました。
「やっべーーーーーーーーーーー」
おそらく、新しい分野について猛烈に勉強されて、
短期間に知識を積み上げて来られたのだと思います。
そして、
それをより確かなものにするために、
別の見方を知りたいために、
思い違いを修正するために、
あるいは、より本質を理解したいために、
「○○って何ですか?」
「それ、どういう意味ですか?」と
知らない振りをして質問されているのではないかと・・・
そこに気づいて以降、
ありきたりの表面的な説明ではなく、
Aさんが期待しているレベルを超えて、
「なるほど」と思ってもらえるような話ができているのか、
私の力量を試されているような気分にもなりました。
自分が深く理解できていてはじめて
人に分かりやすく説明することができるので、
これまでの何倍ものエネルギーを費やして、
準備するようにもなりました。
実は、このAさんのように、
知っているのに知らない振りをする人は、
仕事が抜群にできる経営クラスの方の中に
時々見受けられます。
自分の決断ひとつで組織が大きく動くという
プレッシャーと常に戦っている彼らは、
「知ってはいるが、本当は分かっていないかもしれない」
というリスクの存在を知っているからです。
「そんなこと知っている」と言ってしまえば、
もうそれ以上の情報を手にすることはできません。
それが重要な事項であればあるほど、
あえて知らない振りをして、
本質を理解するために、さまざまな人に対して
「○○って何ですか?」と質問するのです。
そこが分からずに、上っ面の説明でいい気になったり、
優越感で上から目線で話したりしてしまうと、
一発で、こちらの人間的な浅さを見透かされてしまいます。
できる人ほど知らない振りをする、
なぜなら
知ってはいるが、本当は分かっていないかもしれない
というリスクの存在を知っているから
Aさんのような方と仕事をさせていただいたおかげで、
何度も「ヒヤッ」としながらも、
よい経験をすることができました。
その後、業界の集まりの席で、他社の人が、
「○○社のAさん、ぜんぜん分かっていないから、
俺がいろいろと教えてあげてるんだ」
と、ノー天気に話しているのが漏れ聞こえてきました。
「あーーー、くわばら、くわばら」って
手を合わせながら、
そっとその場から立ち去りました。