広中平祐先生から学んだ知識と知恵

├学習能力を高める

「知識」はあるが「知恵」が働かない―――AIを含めた情報過多の現代において、こうなってしまうリスクには気をつけるべきだと思います。

正解がある問題に対しては、経験や前例などを含めて、蓄積した「知識」から答えを探し出せばよいでしょう。

しかし、正解がない問題で必要なのは「知恵」です。蓄積した経験や知識を参考にしながら、最適な対応をつくり出す思考が必要なのです。

ネットやAIで「正解という情報」を頼りにしすぎると、この思考力が弱体化します。知識は厚くなっても知恵が働かないのです。

いくら、「でも、最後に決めるのは自分だから」と思っていても、知識を知恵に変換する体験を外部情報任せにしていると、自分固有の知恵が磨かれないのです。

この知識と知恵について、私には忘れられない体験があります。

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広中平祐先生との1時間験
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かつて証券会社に勤めていた時、数学者の広中平祐先生と話をさせていただく機会がありました。会社が先生との共同研究プロジェクトを発足させた時のことです。数学で証券市場の動きをどこまで説明できるか、ざっくりと、そういうテーマだったと思います。

プロジェクト開始にあたって、証券市場については門外漢だった先生に、関連部門の社員が順番に基礎的なレクチャーをすることになりました。私も担当していた金融工学の一分野を説明させていただいたのです。

数学界のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞された大御所です。「怖い人かな」と、かなりビビっていたのですが、その懸念はすぐに払しょくされました。

子供のようなキラキラとした目で、「それはどういう意味?」「なぜそうなるの?」「こう考えればいいの?」と、次々と質問が飛んでくるのですが、決して難しい内容ではなく、本当に「知らないから教えてよ」という素朴な好奇心を感じたのです。

丁寧にお答えすると、「ああ、そういうことね」「なーるほど」「おもしろいね!」と、ニコニコしながら理解を深めていかました。

1時間程度の時間でしたが、超一流の人だからこその「素朴な好奇心と謙虚な学習姿勢」を目の当たりにした貴重な体験でした。

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素直な心で深く考える
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広中先生が座右の銘とされていたのが「素心深考」という言葉です。「素朴な心に帰って深く考え直せ」という意味だそうです。

私たちは、人生や仕事を通して経験と知識を積み重ねていくことで、気づかないうちに偏見や思い込みの罠にはまってしまいます。

その結果、ノイズに惑わされて問題を複雑にしたり、逆に、安易に処理して本質を外したり・・・・・・。問題の解決を困難にしてしまうのです。

もちろん、知識と経験の蓄積は大切です。同時に、蓄積が増えれば増えるほど、素朴な心で問題の本質を見つめ、その上で深く考えることも大切なのです。

ここで必要になるのが「知恵」です。広中先生は、著書で次のようなことを述べておられます。

本来、経験と知識から身につけるべきは「知恵」である。知恵には物事を深く見つめる「深さ」という側面がある。そして、物事の決断力を促す「強さ」という側面もあるからだ(『生きること 学ぶこと』集英社)。

いまのAI時代の到来を見越していたかのようなメッセージです。

 

私はその後、広中先生から学んだ素朴な好奇心と謙虚な学習姿勢をずっと大切にしてきました。おかげで、職場や仕事を何度か変えつつも、日々の学びを楽しみながら良き職業人生を送ることができています。

先日(2026年3月18日)、広中先生の訃報に接しました。94歳の数学者人生でした。
わずかの時間でしたが、先生と共に過ごせたことへの感謝を胸に、心からご冥福をお祈りいたします。

 

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