10月4日に若田光一宇宙飛行士のISS(国際宇宙ステーション)に向けての
打ち上げが予定されています。32歳の初飛行から30年弱、日本人最多とな
る5度目の飛行です。
若田さんと言えば、かつてTV番組で話していたISS滞在時のエピソードを
思い出します。
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NASA(米国航空宇宙局)との大げんか
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2013年、日本人初のISS船長として米国、ロシアの5人のクルーとともに
長期滞在をしていたときのこと。
あるメンバーが希望していた食事が、手違いで補給品の中に含まれていなか
ったとのこと。食事はクルーたちがとても楽しみにしていることの一つであ
り、そのメンバーはガックリ気落ちしてしまったそうです。
若田さんは船長としてNASAに状況を伝えるが、「申し訳ないが、届いている
もので我慢して欲しい」とのこと。
「では、次の補給船で届けてくれ」と粘ったのだが、すでに実験資材等を含
めた積み込み計画が完了しており、今更変更できないとのこと。
1回の補給船でできるだけ多くの物資を届けるための荷物配置を、コンピュ
ータを使って蟻の這い出る隙もないぐらいにピタっと決めるそうなんです。
しかし、若田さんはこの木で鼻をくくるような回答に激怒。「ふざけるんじ
ゃない!毎日、神経をすり減らして仕事をしているメンバーの楽しみを奪う
権利はお前等にはない!」と、一歩も引かなかったそうです。
その剣幕にNASAも押されて、「わ、わ、分かった」と積み込み計画を見直し、
次の補給船で、メンバーが希望していた食事が無事に届いたとのことです。
メンバーは、「コウイチは自分のために、NASAと喧嘩までしてくれた」と、
船長としての若田さんに最大限の感謝と敬意を伝えたそうです。
若田さんのように、メンバーの気持ちを理解して、リスクを覚悟で自分が矢
面に立つような人を、メンバーはリーダーとして認めるのでしょう。
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優秀な専門家で、優秀な管理職
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若田さんのような人には、当然、管理職としてチームを運営する仕事が回っ
てきます。
日本ではあまり知られていませんが、若田さんは、米NASAで「ISS運用ブ
ランチチーフ」として、30人の宇宙飛行士をとりまとめる管理職だったこ
とがあります。
日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)でも、宇宙飛行士グループ長、有人
宇宙技術センター長、さらには理事といった管理職を歴任してきました。
一方で、若田さんは、今回のミッションのように現役の宇宙飛行士でもあり
続けています。すなわち、宇宙飛行士として実務を遂行するための高い専門
性を備えた優秀な管理職、「マネジメントができる専門家」なのです。
だからこそ、59歳になった今でも、現場の第一線で活躍されているのだと
思います。
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求められているのはマネジメントができる専門家
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私たちの仕事も同じです。
このコラムや著書を通して繰り返しお伝えしているように、プレーヤーとし
て仕事ができるほどの高い専門知識とスキルを磨き続けることと、専門家集
団を率いるマネジメントという役割を両立させること、すなわち「マネジメ
ントができる専門家」であることがこれからの管理職のあるべき姿です。
専門性はそこそこでも、交渉力や調整力を持ったゼネラリストとして活躍す
ることができたのは過去の時代の話です。これだけ世の中が急速に変わりつ
つある時代において、専門的なことが分からない人に的確な判断などできる
わけがありません。
特にここ数年、「専門的なことが分からない上司をどう扱えばよいのか」と
いう現場の声を幾度となく聞いてきました。転職市場が管理職のポジション
に求めているのも、「マネジメントができる専門家」です。
両方は無理、なんてことはありません。生産性を高めて時間を効率的に使っ
ている外資系企業ではそれが当たり前ですし、日本企業でもそれを実現して
いる管理職はたくさんいます。
管理職はマネジメントに専念すべしといった、個人の市場価値を劣化させる
会社都合の言葉に惑わされずに、ぜひ挑戦していただきたいと思います。