安易に「日本らしさ」へ逃げない

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心理学で「確証バイアス」という言葉があります。

 

簡単に言うと、
「人は、自分を正当化する情報ばかりを集めようとする」
ということです。

 

自分の考えの正しさを補強するような情報には
敏感に反応する一方、
自分の考えを否定するような情報には
目をつぶる傾向があるのです。

 

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「だよね!」まで答えを求める
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たとえば、異動でやってきた新しい上司を
「なんかイマイチだな」と感じたとします。

 

同僚に「どう思う?」と聞き、
もし、「そんなことないけど」という反応だった場合、
次々と他の人の意見を聞き、

「そうそう、なんかイマイチだよね」
「だよね!」

と、自分の考えが正当化されるまで問い続けます。

 

あるいは、業務上の大切な決断に際して、
自分の中ではすでに答えを出しているにもかかわらず、
いまひとつ踏ん切りがつかないとき、
自分の出している答えが間違っていないことを
支持するような情報ばかりを必死に求めようとします。

 

逆に、自分の答えを否定するような情報に対しては
見て見ないふりをしてしまいます。

自分が出した答えを正当化したいからです。

 

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変化を促進するし阻害もする
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確証バイアスは、変化を好む人に対しては
変化を促進するような作用を及ぼし、

変化を嫌う人に対しては
変化を阻害するような作用を及ぼします。

 

変化を好む人が、
何らかの変化を実現しようとしているとき、
確証バイアスによって変化を正当化するような情報が
優先的に目にとまるため、
自信を持って決断することができます。

 

一方、変化を嫌う人が、表面的には
「変わらなければ」と表明していたとしても
本心がそれを拒んでいると、

確証バイアスによって
変わらなくても良い理由や
変わることのリスクなどの情報優先的に目にとまり、
現状維持を選択してしまいます。

 

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「日本らしさ」が確証バイアスを生む
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さて、
社会やビジネスが大きくかつ急速に変わっていく中で、
「日本らしさ」という言葉がよく使われます。

 

企業変革などの議論において、
変化を起こさなければ生き残っていけないことに
総論的には賛成していても、

日本の良いところは残して、

日本に合った形で、

日本としての強みを生かして

などの「日本らしさ」が出てくるのです。

 

その考え自体は否定しませんが、
気をつけなければならないのは、
保守的な経営者や管理職の場合、
確証バイアスによって

日本の良いところ、

日本人に合ったもの、

日本の強み、

のみに目が行って、

リスクや痛みを伴っても変えなければならない
日本企業の悪しき習慣や考え方、
つまり自分たちにとって「イタい」情報には
無意識のうちに目をつぶってしまうことです。

 

本来、偏り(バイアス)なく様々な情報に接した上で、
それでも、日本の良いところは残して、
日本に合った形で、日本としての強みを生かして、
という選択をすべきであるにもかかわらず、

最初の段階で情報に大きな偏りを生じさせることになります。

 

そうすると、善くも悪くも
「日本らしさ」ばかりが正当化されるような感覚になり、
「日本らしさ」という錦の御旗のもとに
変化の機会が大幅に制限され、
本質的な変化を起こせなくなってしまいます。

 

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視点を変えて問いかける
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このような場合には、
視点を変えて自分に問いかけることが効果的です。

 

米インテル社は、80年代に、
当時の主力事業であったDRAM(半導体メモリー)から
撤退するという大きな決断を行いました。

 

日本の半導体メーカーとの価格競争に巻き込まれて
収益が悪化していたのです。

その時、のちにCEOとなるアンドリュー・グローブは

「もし、自分たちがクビになって、
外部からCEOが来たらどうするだろうか?」

という問いを、自分を含めた経営陣に発しました。

保守的な気持ちから事業継続という選択が
正当化されるような確証バイアスを振り切って、
ゼロベースで、未来に目を向けた決断をするためです。

この、視点を変えた自らへの問いに対して、
インテル社の経営陣は事業撤退という答えを出します。

その大英断の結果、同社はいま、
マイクロ・プロセッサ界王者として世界に君臨しています。

 

 

経営者の年頭挨拶などで
「今年は変化の年だ」といった言葉が繰り返されますが、
世の中に価値提供すべくビジネスを行っている限り
本来、「毎年が変化の年」であるべきです。

 

確証バイアスによって変化の機会に対して
視野が狭くなることを防ぐためにも、
あえて視点を変えて自らに問い直してみてはいかがでしょうか。

 

 

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