信頼と共感を得る「アリストテレスの説得術」

■仕事力を高める

 

ある若手ビジネスパーソンのAさんから、
「一生懸命、話しているのだが、お客様に伝えたいことがうまく伝えられない」
という悩みを聞きました。
同じような悩みを抱えているビジネスパーソンは、Aさん以外にもたくさんいます。

この問題に関しては、ギリシャの哲学者アリストテレスの主張が参考になります。

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共感できないパネリスト
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かつて、私が働いていた金融業界のセミナーで、
あるパネルディスカッションを聞いた時の話です。
パネリストの一人が面識のあるXさん。
押しの強い論客で、自説を理路整然と、しかも熱く語っています

何人かの聴衆がXさんの話にうなずいており、
私も、「なるほど」と思う部分がいくつかありました。

しかしどうしても、
「そうだ、そのとおり!」と深く共感することはできませんでした。

 

なぜかというと・・・・・・

それは、Xさんを人間的に信用していなかったからです。

 

私が直接感じたXさんの仕事ぶりや人に対する姿勢から、
さらには、耳に入ってくるXさんの評判から、
あまりにも自分勝手だという印象を受けていたのです。

だから、Xさんの話は額面通りには信用できないと感じてしまったのです。

 

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アリストテレスの説得術
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ギリシャの哲学者アリストテレスは、著書『弁論術』の中で、
説得力を高める要素として次の3つを挙げています。

ロゴス (Logos; 論理性)

パトス (Pathos; 情熱)

エートス (Ethos; 人徳・特性)

論理的な組み立てでわかりやすく、想いをこめて熱心に、
信じられる人が話すからこそ、人は耳を傾けようとするのです。

Xさんは、ロゴス(論理性)とパトス(情熱)は問題なかったのですが、
私から見て、エートス(人徳・特性)にバツがついていたのです。

「何を話すか」よりも「誰が話すか」の方がより影響する、そういうことです。

 

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相手の土俵で自分の相撲を取る
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では、自分がプレゼンをする側になったときのことを考えてみましょう。

ロゴス(論理)は準備できます。
パトス(情熱)も、本当に強い思いがあれば自然と滲み出てきます。

3つめの、エートス(人徳・特性)はどうでしょうか?

実は、アリストテレスが言っているエートスには、
人徳以外にも、専門家としての信頼感や聞き手に与える好感度なども含まれています。

聞き手に対して、専門家としてのプレゼンスや人としての誠実さが伝わるように、
あるいは、聞き手が好感や安心感を得られるように話をすることで、エートスは高まるのです。

 

そのために大切なマインドは、
「相手の土俵で自分の相撲を取る」ということです。

相手は何に困っているのか?
相手はなぜ困っているのか?
相手は何を知りたいと思っているのか?
相手の立場や都合をどれだけ理解しているのか?
相手はどのような気持ちでそこにいるのか?

徹底的に相手の視点に立って話をすること、すなわち相手の土俵に立つことが、
「この人は、自分のことをわかってくれている」という相手の安心感、
共感性、信頼感を高めていきます。

 

その上で、
自分たちは相手のどのような問題を解決しようとしているのか?
なぜ自分たちにそれができるのか?

なぜこれが、自分たちにしかできない提案なのか?
―――自分たちの相撲を取るのです。

 

自分の土俵で自分の相撲を取ったのでは、相手の共感は得られません。
いくら製品の品質や優位性を熱心に説明しても、「だから、なに?」です。

相手の土俵で相手の相撲を取ったのでは、便利屋と化してしまいます。
別に自分たちである必要はなく、代替可能な業者扱いされてしまいます。

相手の土俵で自分の相撲を取ってこそ、
自分たちでは解決できない問題を解決してくれる唯一無二の存在として認めてもらえるのです。

 

2000年以上も前の哲学者の話ではありますが、
聞き手の共感と信頼を得る、アリストテレスの「ロゴス」「パトス」「エートス」は、
説得術にとどまらず、コミュニケーション全般に効果的な要素だと思います。

 

 

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