どのような組織にも、うまく上司を巻き込んで、より迅速に、より質の高
い仕事をしている人がいます。一方で、それが苦手で、自分の権限範囲だ
けでしか仕事ができない人もいます。
何が違うのでしょうか?
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合理的な提案が通らない?
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ある企業で営業支援の仕事をしている課長のAさんは、上司の部長Bさん
に業務のシステム化について提案しました。多少の費用と課員の作業が必
要ですが、それで課員の仕事はずいぶん楽になります。
ところが、Bさんの食いつきは芳しくなく、「悪くはないんだけど、どうか
ね」と却下です。Aさんは、何が悪かったのかわからずに悶々としていま
した。
私が聞く限りでは、Aさんの提案は合理的かつ現実的なもので、Aさんと
Bさんの関係も悪くはないようです。
このようなときには、別の視点で問題を見直すことが必要です。
すなわち、「この提案は、上司にどのようなメリットをもたらすのか?」と
いう視点です。
ここで言う上司のメリットとは、上司個人の業務目標の達成に寄与すること
です。AさんによるとBさんの業務目標は、「たぶん、新商品で新規顧客を
獲得することではないか」と。
では、Aさんの提案は新規顧客の獲得にどのように貢献するのでしょうか?
Aさんの回答は「直接的には……」です。
であれば、部長のBさんはこう考えたのではないでしょうか。
「業務のシステム化は必要だが、いまそのために人と時間、予算を割くぐら
いなら、その分を新規顧客の獲得に使うべきだろう」
自分の業務目標と照らし合わせると、Aさんの提案が魅力的だとは感じな
かったのです。
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自分都合を上司都合にする
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上司にイエスと言わせて巻き込むのが得意な人は、上司の業務目標を把握
した上で、それに貢献するような形で話を持ちかけています。
先ほどのAさんのケースであれば、
「このシステム化によって、課員の余剰時間を生み出すことができます。
それを、新しい営業資料の作成や顧客対応に回せば、新規顧客の獲得に弾
みがつきます。営業責任者のCさんもそれを歓迎しています」
仕事が楽になるという「自分都合のメリット」を、新規顧客の獲得という
「上司都合のメリット」にする―――このような論法が「ダブルメリット
話法」です。
まず、自分のアイデアの直接的なメリット(業務のシステム化によって仕
事が楽になる)を述べたあと、『その結果』、もたらされる上司のメリット
(余剰時間を営業支援に充てることができる)を述べるのです。
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健全な上司ころがし
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上司のメリットといっても、それが個人的な利益であってはなりません
が、まともな会社であれば、それは会社の事業戦略と同一線上にあるはず
です。
ダブルメリット話法で、「その結果」以降を上司の業務目標に関係づけると
いうことは、とりもなおさず、自分の提案を会社の事業戦略と同一線上に
置くということです。
どの会社にも、実力者の信頼を得てアイデアを実現している中間管理職の
人たちがいますが、彼らの論法も基本的には同じです。
自分がやりたいことを「この話はあなたの得になりますよ、へっ、へっ、
へっ」という話に仕立てて耳元でささやき、健全に上司をころがしている
のです。