今回は、ネズミを使った心理学の実験を
ひとつ紹介します。
ネズミを入れる小部屋の中に、
独立したトンネルにつながる4つの入り口を用意します。
トンネルの先にある出口を1つだけ解放しておき、
そこに餌を置いておきます。
これで、実験開始です。
空腹状態のネズミを小部屋に入れると、
ネズミは適当な入り口からトンネルに入ります。
やがて、行き止まりになってそこに餌がないことが分かると、
小部屋に引き返してきて
別の入り口からまたトンネルに入ります。
これを何回か繰り返しているうちに、
晴れて餌の置いてある出口にたどり着き、
めでたしめでたしというわけです
餌の置き場所を変えずに同じ実験を繰り返します。
ネズミは、しばらくはランダムにトンネルに入って、
最初と同じような試行錯誤の末に餌にたどり着きますが、
やがて「正解」の入り口がどれかを認識するようになり、
その後は、小部屋に入れると一目散に
その入り口を目指して進むようになります。
学習効果が現れてきたわけですね。
そのことを確認したうえで、
今度は餌の置いてある出口をふさぎ、
別の出口の先に餌を置き実験を続けます。
いつも通りの入り口を選んで猛進したネズミは、
当てが外れて「うそっ!?」ってな感じで、
トンネルの中を行ったり来たりします。
一度小部屋に戻って、
「おっかしーなー」と言ったかどうかは知りませんが、
また同じ入り口からトンネルに入り、行ったりきたりです。
やがて、これまでとは様子が違うことに気付き、
「こりゃだめだな」とばかりに今度は別の入り口に入り、
最初と同じような試行錯誤の末に餌を探し出します。
さてさて、私たち人間も、
基本的にはこのネズミと似たような行動特性を持っています。
んが、意外と、
たまたまうまくいった方法や昔はうまくいった方法を、
絶対的なものだと思い込んでしまい、
なかなかそのやり方を手放そうとしない、
ってことがないでしょうか。
いつまでも正解がそこにあると思い込んで
同じトンネルの中を行ったりきたりしているネズミの状態です。
でも、この実験でも環境が変わるのと同じようにと、
ビジネスにおいても正解は同じ場所にはじっとしていません。
人や環境や技術や世界がどんどん変わっているのですから、
どのトンネルの先に餌があるかなんて、
常に探し続ける必要があるんです。
にもかかわらず、
「俺はこれまでこの方法でやってきた」とか
「この方法でうまくやってきた実績がある」
など、同じトンネルの中を、
ずっと行ったりきたりしています。
ネズミは餌がないことが分かると、
別の入り口にトライする行動に移ることができるのですが、
人は、なかなかそうはいかないようです。
自分ひとりならまだしも、一度成功体験を手にした人が、
とっくに有効ではなくなってきている思い込みを
部下や後輩に押しつける場合も少なくありません。
で、どうなるか?
まあ、餌にはありつけないわけです。
しかし、それでも自分を正当化して、
「いや、出口が開いていないのがおかしい」
「そこに餌がないこと自体がおかしい」
など、環境や他人が間違っているなんて言い始めます。
正しい方法や、正解を手にするやり方は、
環境変化に共なって刻々と変わっていくため、
決して永久的なものではありません。
特に、
「すぐに使えるものは、すぐに使えなくなる」
といわれるように、
安易に手に入れた方法の有効期限は結構短いものです。
人から聞きかじったやり方でやってみて
「うまくいかない」と文句を言ったところで始まりませんし、
そんなのよくあることです。
うまくいった経験から学習することは大切です。
しかし、方法の有効性は変わることを前提に、
時には、「こりゃだめだ」ということを認める勇気と
「もう1回、やりなおしてみっか」という
労を惜しまない試行錯誤の姿勢が大切です。
「続けることを諦める」ということではなく
「最適な方法を探す努力をやめない」ということです。
そうすれば、私たちも
少しはネズミに追いつけるのではないでしょうか。