6月にモンゴルに行った時のことは、
このコラムでもご紹介しましたが、
実はその時、
どうしてもこの目で見ておきたいものがありました。
「オペラ劇場」です。
ウランバートル市の中心部にあり、
白い柱とピンクの壁がひときわ鮮やかに目を引く文化施設です。
なぜオペラ劇場を見たかったかというと、
この建物が日本人の手によって建てられたからです。
多くの犠牲者を出しながら。
終戦後、旧満州に駐留していた
約60万人の日本人兵士がシベリアに抑留され、
過酷な労働を強いられたことはよく知られています。
実はその時、
社会主義国で旧ソ連の影響下にあったモンゴルにも、
1万2000人以上の日本人がシベリアから移送されています。
氷点下30度にもなる極寒の地で、やはり過酷な労働を課せられ、
数年間の抑留期間中に1,600人以上の人たちが亡くなっています。
私たち日本人の先輩が、祖国から遠く離れた地で
ただただ黙々と働き続けて造りあげたものを、
私はこの目で直に見ておきたかったのです。
美しい堂々たる建物でした。
厳冬の冬空の下で、
日本人は本当に真面目に一生懸命働いたそうです。
その勤勉な仕事ぶりに現地の人たちは驚き、感動して、
中にはそっと食料の差し入れをした人たちもいたそうです。
置かれた環境をどうすることもできなかったにもかかわらず、
「人の役に立つことであれば、誠意を持って一生懸命働こう」、
こういう生き方を彼らは選んだのです。
この劇場は今日に到るまで70年のあいだ、
ほとんど補修工事をする必要もなく当時の姿を維持しています。
国の施設として、
これまで数え切れないほどプログラムが上演され、
モンゴルの豊かな文化振興のために貢献してきたことでしょう。
人にとって意味のある労働であったことが救いですが、
やはり劇場の前に立つと、様々な感情がわき上がってきます。
私は、かつて、
このような日本人の先輩たちがいたことを忘れずに、
いまの自分の仕事を全うしたいと思っています。