司馬遼太郎の『国盗り物語』の中に、
若き日の斎藤道三の
次のようなエピソードが出てきます。
僧侶から還俗したのち、
入り婿としてとなった京都の油屋で、
道三は売り子たちの悪徳を発見する。
売り子がマスで量った油を客の壺に入れるとき、
ほんのわずかをマスの底に残して、
それを溜めて着服しているのだ。
客も店も黙認してきた油屋業界の慣習のようだ。
道三はこの悪しき慣習をやめさせ、
客自身の手で油をマスから自分の壺へ
一滴残らず移し替えてもらうようにした。
これが、誠実な商いとして評判となり
客が次々と増えていった。
さて、ここで道三の面白いところは、
慣習とはいえ不法に油を着服していた売り子への対応である。
売り子の利益も認めてやったのだ。
マス残しの油と同量のものを、
店から無料で売り子にあげることにした。
既得権を取り上げられそうになっていた売り子は大喜び。
しかも、売った油の量に応じて、
おおっぴらに油がもらえるとなり、商売にも精を出す。
これまでは、
朝、担ぎ出した油を売りつくすと
仕事を終わっていたのだが、
店に戻って何度でも売りに出るようになり、
店の利益もうなぎ登り。
結局、店も売り子も客も、
全員ハッピーなwin-win-win!
というエピソードです。
慣例とはいえ、
客をだますようなことはやってはいけないと、
マス残しをやめさせるところまでは、
そりゃそうだよな、という話です。
しかし、
売り子がやる気を無くさないように、
いや、もっとやる気を出すように、
不法にくすねていた油を売上に応じて
正式に支給するようにした!
客も喜ぶ、売り子もウハウハ、
店も繁盛といった結果をもたらす、
「思考のイノベーション」です。
組織運営や企業経営上、
正しいことや合理性を追求することは当然のことですが、
そこに人の気持ちを動かす要素を含めることが、
良い結果を生み出すための大きな要因です。
やみくもに効率性を追求して、
これまでのやり方を否定し、
自分のやり方を一方的に押しつけてしまうと、
メンバーのモチベーションが下がり、
効率化した分以上の生産性の
低下を招くことさえもあります。
1割効率化したが、メンバーのやる気は5割下がった、
な~んてことにもなりかねませんね。
多少、効率性は悪くても、
メンバーが自分で考えて主体的に行っていることは
尊重すべきです。
ただし、問題点はしっかりと指摘し、
より良くなるための改善策も
本人たちに考えてもらう、
このようなサポートをできるのが、
チームで成果を出していけるリーダーです。
チームの成果は、
仕組みやルールなどの合理性・効率性と、
人の労働意欲や改善意欲の総和で決まります。